2.手陽明大腸経(正経・正経病症・経別・経筋・経筋病症・絡脉・絡脉病症)
正経
大腸手陽明之脈.起于大指次指之端.循指上廉.出合谷両骨之間.上入両筋之中.循臂上廉.入肘外廉.上臑外前廉.上肩.出髃骨之前廉.上出于柱骨之会上.下入缺盆絡肺.下膈属大腸。
其支者.従缺盆上頸貫頬.入下歯中.還出挾口.交人中.左之右.右之左.上挾鼻孔。
大腸 手の陽明の脈は、大指次指の端に起こり、指の上廉を循り、合谷両骨の間に出で、①上りて両筋の中に入り、臂の上廉を循り、肘の外廉に入り、臑の外前廉を上り、肩に上り、②髃骨(ぐうこつ)の前廉に出で、上りて③柱骨の会上(かいじょう)に出で、下りて缺盆に入りて肺を絡い、膈を下りて大腸に屬す。
其の支(わか)れたる者は、缺盆より頚に上りて④頬を貫き、⑤下歯の中に入り、還り出でて口を挾み、人中に交わり、左は右に之(ゆ)き、右は左に之(ゆ)き、上りて鼻孔を挾む。
補足
①上りて両筋の中に入り:陽谿穴のこと
②髃骨:肩髃穴のこと
③柱骨の会上:柱骨は大椎穴のこと。会上は六陽経が大椎で会っていること
④頬:鼻の傍ら全体
⑤下歯の中に入り:手陽明大腸経は別名を「歯脈」という
正経病症
是動則病歯痛頸腫。是主津液所生病者.目黄.口乾.鼽衄.喉痺.肩前臑痛.大指次指痛不用。
気有余則当脈所過者熱腫.虚則寒慄不復。
是れ動けば則ち歯痛み①頸腫るるを病む。是れ②津液の生ずる所の病を主る者、目黄ばみ、口乾き、③鼽衄(きゅうじく)し、④喉痹(こうひ)し、肩前の臑痛み、大指次指痛みて用いず。
気に余りあるは則ち脈の過(よ)ぎる所に当たる者熱し腫れ、虚すれは則ち⑤寒慄(かんりつ)して復せず。
補足
①頸腫る:甲状腺腫など頸周囲の腫れ
②津液の生ずる:津液との関係が深い
③鼽衄:鼻水が垂れること、鼻血のこと
④喉痹:扁桃腺炎
⑤寒慄して復せず:悪寒戦慄していて暖かさを回復しにくい状態
経別
手陽明之正.従手循膺乳.別于肩髃.入柱骨.下走大腸.属于肺。
上循喉嚨.出缺盆.合于陽明也。
手陽明の正は、手より①膺乳(ようにゅう)を循り、肩髃に別れ、柱骨に入り、下りて大腸に走り、肺に属す。
上りて喉嚨を循り、缺盆に出で、陽明に合するなり。
補足
① 膺乳:乳房
経筋
手陽明之筋.起于大指之上端.結于腕.上循臂.上結于肘外.上臑.結于髃。
其支者.繞肩胛.挾脊。直者.従肩髃上頸。
其支者.上頬.結于頄。直者.上出手太陽之前.上左角.絡頭.下右頷。
手陽明の筋は、大指の次指の端に起こり、腕に結び、上りて臂を循り、上りて肘外に結び、臑を上り、①髃に結ぶ。
其の支なる者は、②肩胛(けんこう)を繞(まと)い、③脊を挾む。直なる者は、肩髃より頸に上る。
其の支なる者は、④頬に上り、頄(きゅう)に結ぶ。直なる者は、上りて手の太陽の前に出で、⑤左角に上り、頭を絡い、⑥右頷(がん)に下る。
補足
① 髃に結ぶ:肩髃穴のこと
②肩胛:肩甲部
③脊:脊柱のこと
④頬に上り、頄に結ぶ:頬部を上行して、頬骨部に結ぶ
⑤左角:左の前額髪際
⑥右頷:右の顎下
経筋病症
其病当所過者支痛及転筋.肩不挙.頸不可左右視。
其の病の過ぎる所に当たる者は支(つか)え痛み及び転筋し、肩挙がらず、頸左右を視るべからず。
絡脉
手陽明之別.名曰偏歴。去腕三寸.別入太陰。其別者.上循臂.乗肩髃.上曲頬偏歯。
其別者.入耳合于宗脈。
手陽明の別は、名づけて偏歴と曰う。腕を去ること三寸、別れて太陰に入る。其の別れたる者は、上りて臂を循り、肩髃に乗じ、曲頬(きょくきょう)を上りて歯に偏す。
其の別れたる者は、①耳に入り宗脉に合す。
補足
①耳に入り宗脉に合す:耳中に経脈(手少陽・足少陽・手太陽・足陽明)が集まって、
主脈・大脈を成している
絡脉病症
実則齲聾。虚則歯寒痺隔。取之所別也。
其の別れたる者は、耳に入り宗脈に合す。実するは則ち①齲(むしば)し聾す。虚するは則ち歯寒え、②痺隔す。これを別るる所に取るなり。
補足
①齲し聾す:虫歯
②痺隔:隔間が閉塞して通じないこと
参考文献
石田秀美/白杉悦雄「現代語訳◉黄帝内経霊枢 上下巻」,東洋学術出版社
藤本蓮風「臓腑経絡学」,アルテミシア
淺野周「全訳 経絡学」,たにぐち書店